「何回言ってもできない部下」に責任はあるのか――

過失割合という考え方から見えてくるもの

先日、ある研修会でこんな質問をいただきました。DVとハラスメントのお話をした時のことです。

「何回言ってもできない社員を叱るとパワハラと言われる時代ですが、本当に上司だけが悪いのでしょうか。部下にも過失割合があるのではないでしょうか。」

とても興味深い質問でした。

私は、「過失割合」という言葉は職場ではあまり適切ではありませんが、責任を一人だけに求める問題でもないとお答えしました。

例えば、部下が何度説明しても業務を理解できないとします。そのとき、「何回言っただろう」と腹が立つ気持ちは自然なことです。しかし、マネジメントにはもう一つの視点があります。

それは、「その人が理解し、実行できる仕組みは整っていたのか」という問いです。

業務マニュアルはあるのか。チェックリストは整備されているのか。どの段階までできれば一人前なのかというキャリアパスは明確なのか。教える人によって言うことが違っていないか。

こうした仕組みが十分でなければ、できない理由は本人だけにあるとは言えません。組織にも改善すべき課題があります。

もちろん、必要な教育や支援を受け、それでも改善しようとしないのであれば、本人の責任が問われる場面もあります。しかし、それは組織として「できるようになる環境」を整えた後の話です。

私はDVやハラスメントの研修で、「過失割合」という考え方について話すことがあります。ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。

DVやハラスメントでは、「被害者にも責任がある」という意味で過失割合を考えることはありません。暴力や人格を傷つける行為は、加害者が負うべき責任です。

一方で、職場の人材育成は別の問題です。

人材育成では、本人の努力だけでなく、管理職の育成力や組織の教育体制も成果に大きく影響します。つまり、「誰が悪いか」を決めるのではなく、「どうすればできるようになるか」を考えることが重要なのです。

「何回言ってもできない部下」と嘆く前に、「何回でも理解できる仕組みになっているだろうか」と問い直してみる。

その視点を持つことが、パワハラを防ぎ、組織を強くする第一歩なのではないでしょうか。