「愛の不在」を搾取する社会――悪質ホストが映し出す、生きづらさの連鎖

2025年6月18日、大田区社会福祉士会で「居場所のない女性の心身を搾取し、泥沼へといざなう悪質ホストの手口と背景」というテーマでお話しさせていただきました。多くの方にご参加いただき、深い共感や驚き、怒りの声も寄せられました。そのなかのひとつのご感想をご紹介しながら、あらためて考えたいことがあります。

――ホストへの“教育”という名の搾取

ある参加者の方が、「ホストへの悪質クラブの研修内容」に衝撃を受けたと話していました。
そこでは、「金になる客」を見極める方法が教え込まれているというのです。

悪質ホストにターゲットにされやすいのは

  • 幼少期に虐待を受けて育った子
  • 学校でいじめられ、孤立を深めてきた子
  • 愛される経験が乏しく、誰かに必要とされたいと強く願う子

――そんな「愛に飢えた」女性たちがターゲットになります。
甘い言葉や“特別な関係”を装った疑似恋愛によって信頼を得た後、次第に高額な売掛や借金を背負わされていく。そして払えなくなれば、風俗、AV、性産業…と、「返済」のために“売られて”いく現実があるのです。

これはもはや、恋愛でもビジネスでもなく、**心の脆さをシステム的に利用した「搾取」です。

居場所のなさと人間関係の貧困が生み出す“依存”

この問題の根底には、「関係性の貧困」があります。
家でも学校でも、社会でも、「自分のままで愛され、尊重される経験」がないまま育った子どもたちは、心に大きな空白を抱えます。

そんな空白を埋めてくれる存在として、ホストに「居場所」を見出してしまうのは、ある意味で必然なのかもしれません。

けれど、その先にあるのは、さらなる孤立と、過酷な搾取。
まるで「生きることに慣れていない」若者たちが、社会の隙間に吸い込まれていくような感覚さえあります。

「ホスト」もまた搾取されている――“共依存”という構造

見逃してはいけないのは、ホストたちもまた、「搾取される側」であるという点です。

多くのホストが、家庭や社会のなかで居場所を持てず、過去に孤立や貧困を経験してきています。
「お金を稼ぐ」ことでしか価値を認められず、他人の心をコントロールすることでしか自分を保てない――そのような生きづらさを抱えて、ようやくたどり着いた“働き場所”が、悪質なホストクラブであることも少なくありません。

この構造は、心の貧しさが連鎖し、共依存的に搾取を再生産する社会の姿を映しています。

ホスト業界の内情については、以前DV加害者プログラムに参加していた元ホストの男性が語ってくれたことを参考にし、追加調査しました。

今、私たちにできること

この問題に対して、「悪質な業者を取り締まればいい」「風俗に行かなければいい」といった単純な解決は存在しません。

必要なのは、誰もが「傷つきやすさ」を抱えて生きている社会であるという認識と、その傷つきやすさが搾取されない社会構造をつくることです。

  • 若い女性たちに、自分を大切にする力と知識を育む教育を届けること
  • 社会的孤立に陥らないよう、地域に「信頼できる居場所」を増やすこと
  • 搾取の加担者にされる若者(ホストや風俗関係者など)にも支援の手を差し伸べること

これらは一朝一夕では実現できませんが、社会全体のまなざしと制度を変えていく大切な一歩です。

最後に――搾取を終わらせる「共感」のまなざしを

搾取の構造に巻き込まれる人は、「弱い人」ではありません。
ただ、生きづらさに苦しみ、誰かを信じたかった、愛されたかった人たちです。

その「人間らしい願い」が、金儲けの道具にされてしまう社会を、私たちは本当に容認していいのでしょうか。

居場所のない社会に、希望の居場所をつくること
それが、私たち一人ひとりに求められている責任であり、希望への道なのだと信じています。