ある日のDV加害者プログラム

DV加害者プログラムで話し合った内容は守秘義務の関係で公開できませんが、どのような教材を使い、どのような意見が出たのかということを少しずつご紹介できたらと思います。

ある日のDV加害者プログラムでは、正義感とDVの関係性について話し合いました。

まずは、正義とはそもそも何なのかについて話し合いましたが、戦争や革命なども、正義感の結果起こった行動なのではないかということも話題に上りました。また、職場においても意見の食い違い等によって正義が振りかざされることもあるという話題も出ました。

家庭内においては、DV加害者は圧倒的に「自分が正しい」「間違っているパートナーを正しい方向に導く」という理由でDVが正当化され、暴力や支配好意を「教育・しつけ」「導き」と解釈する傾向があります。

支配構造の形成において、加害者は「相手のため」という大義名分を掲げながら、実際には自身の不安や不全感を埋める手段として暴力を用いるのです。それにパートナーが反発すると、恐怖心を利用したコントロールに正当性を見出し、自己憐憫からさらに攻撃を強めることもあり、暴力の悪循環になってしまうことも少なくないでしょう。

このような「歪んだ正義感」はDV被害者の自己信頼感を破壊しますし、加害者自身にも行為の本質を認識させにくいのだと思います。

プログラムでは、「正義感」とその正当化について掘り下げて話し合いを行い(内容については省略しますが)、

・自分が正しいと思っていても相手はそう思っているとは限らないと理解する。

・白黒つける必要はないと自分に言い聞かせる。

・言い負かさなくていいと自分に言い聞かせる。

・相手の考えを確認する。

などの意見が出されました。このようにプログラムで話し合うと、頭では「冷静になろう」と考えることができますが、いざカッとなった時に、非暴力の行動がとれるかどうかは、日ごろのトレーニング次第だと思います。時間がかかりますね。

「正義感」については、参加者たちは、自分のDV行動だけではなく、社会生活でも見聞きして経験している人が多かったので、「正義感」を振りかざし、相手を押さえつけようとする加害者について客観的にみるきっかけになったのではないかと思います。

「正義」の価値観から「公正」の価値観にパラダイムシフトできるよう、またこの問題を考えていきたいと思います。

参考:ジョン・ロールズ「正義論」(1971年)