エレガントに毒を吐く:DV被害女性が自分を取り戻す言葉のレッスン『エレガントな毒の吐き方』中野信子著

「私は優しくて従順でいなければならない」
多くのDV被害女性が、知らず知らずのうちに抱え込んでしまうこの“ドクサ(常識)”こそが、彼女たちの沈黙をつくってきました。

でも、怒りをぶつけるのではなく、暴言で返すのでもなく、
「エレガントに毒を吐く」という選択肢があってもいい。

それは、品位を保ちつつ、しかし明確に「NO」を突きつける自己表現の術。
私たちがDV被害女性支援プログラムの中で取り入れている「言葉のトレーニング」は、
まさにこの「エレガントな毒」を身につけるための時間でもあるのです。


✦ そもそも「エレガントな毒」とは?

たとえば、オードリー・ヘプバーンが映画の中で言ったこんな台詞。

“I don’t bite, you know… unless it’s called for.”(噛みついたりしないわ。でも、必要とあらばね。)

このような言葉には、
● ユーモア
● 距離感の調整
● 自分へのリスペクト

が、エレガントに織り交ぜられています。
決して攻撃的ではない。でも、しっかり境界線を引いている。
この「毒」は、暴力とは違う「防御」の言葉です。


✦ DV被害女性プログラムでの実践

私たちのプログラムでは、加害者から日々浴びせられる「言葉の暴力」に対抗する力として、
「言葉で自分を守る練習」を行います。

たとえば、こんな対話練習をします:

加害者役(支援者):「お前はいつも役立たずだ」
参加者の返答練習:「私は私なりにやっている。あなたに評価される筋合いはないわ」

→ ただの罵り返しではなく、自分の軸を中心にした返答を目指します。

ある参加者は、こんな「毒」を身につけました:

「あら、あなたの理屈はいつも興味深いわ。でも、私はそれには従わないの」

彼女は言います。「ただ怒鳴り返しても、あとで虚しくなる。だけど、自分らしい言葉で線を引けたとき、背筋が伸びた気がした」と。


✦ 言葉は、生き直す武器になる

被害を経験した女性たちが、自分を責めたり、声を失ったりするのは、
暴力そのものよりも、その後の社会的沈黙に起因することが多い。

だからこそ、
「静かに、でもはっきりと」
「美しく、でも鋭く」
自分の意思を語る練習が必要なのです。

エレガントに毒を吐くことは、弱さの証ではなく、回復の兆し。
声を失っていた彼女たちが、「自分の言葉」を再構築していく――
それは、まさに「人生の再編集」のプロセスなのです。

✦ 最後に

もしあなたが、誰かに言葉で傷つけられたことがあるなら、
まずは静かに、こうつぶやいてみてください。

「私は、あなたの勝手な脚本の脇役ではないわ。」

それは、小さな抵抗でありながら、
大きな自由の一歩かもしれません。


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「言葉のリハビリ」セッションを毎月第2・4水曜日の21時から22時に開催しています。
ご関心のある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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