日本経済新聞に記事が掲載されました

2018年8月24日の日本経済新聞に、住民票支援措置についての記事が掲載されました

 

DV被害者の住所保護に穴 弁護士通じ漏洩のケースも

ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の転居先の住所を、自治体が加害者側に漏らすトラブルが後を絶たない。書類の誤送付などの単純ミスもあるが、専門家が問題視するのは加害者側の弁護士らに対する住民票などの交付。多くの自治体が依頼人を確認しないまま弁護士らの交付請求に応じてしまっており、被害者を守る制度の「抜け穴」になっている。

 

「元気か?お父さんは元気だ」。今春、自宅に届いた手紙を見た瞬間、30代の女性は目の前が真っ暗になった。差出人は元夫。DVから逃れるため、6年前に子供4人と着のみ着のままで自宅から逃げ出した。追跡をかわすため、加害者らに住民票の交付などを制限する「DV等支援措置」を自治体に申請した。
しかし、過去2回の転居先はいずれも元夫に把握された。昨年離婚が成立し、3度目の転居でようやく縁が切れたと安堵したところに、元夫から手紙が届いた。女性の支援者は「自治体から漏れたとしか考えられない」と憤慨する。
「ルールが自治体内で徹底されず、被害者の住所が分かる書類を職員が加害者に誤送付するなどの単純ミスが目立つ」とこの支援者は批判。ただ「加えて多いのが、加害者が依頼した弁護士や司法書士に住民票などを交付してしまうケース」と話す。

 

弁護士や司法書士が裁判手続きといった職務に絡んで住民票などの交付を請求する場合、原則として依頼人を明かす必要はない。「支援措置」の対象となれば加害者側の弁護士らへの交付は制限されるが、弁護士が依頼人を明かさずに申請した場合に自治体が積極的に確認するかどうかは運用次第となっている。
東京都足立区は2月、支援措置対象者の住所の載った戸籍の付票を元配偶者側の弁護士に交付。弁護士は交付請求の際に依頼人の名前を記載しておらず、区の担当者も確認していなかった。
当時は支援措置対象者の住民票などの取り扱いについてマニュアルもなかったが、その後「裁判に住民票が必要な場合は裁判所に直接渡す」などの基準を作成したという。
DV問題に取り組む一般社団法人「エープラス」は6月、全国の政令市や中核市など97自治体を対象に支援措置の運用方法について調査。回答した43自治体のうち、依頼人が不明の場合に弁護士らに直接尋ねると答えたのは31自治体、依頼人を証明する書類の提示まで求めるとしたのはわずか5自治体にとどまった。
エープラス代表理事の吉祥真佐緒さんは「自治体の運用が統一されていないため、被害者は安心して転居先で住民登録できない」と指摘。その結果、銀行口座の開設や選挙の投票などで支障が出るケースもあるという。
こうした問題は既にDV被害者支援に取り組む関係者の間では知られており、弁護士も疑わしい場合は依頼を断るなどの対応が求められる。吉祥さんは「被害者を守るため、国は自治体に依頼人の確認を義務づけるなど、明確な方針を示してほしい」と求めている。